F2 大動脈瘤

File2. 心臓血管外科
「大動脈瘤による突然死を防ぐために」

 高齢化に伴い、動脈硬化による血管疾患が増えています。大きく分けると、血管が詰まる場合と血管が膨らんで破裂する場合がある全身性の病気で、起きた部位と症状によって病名が特定されています。

 今回は、進行しても自覚症状がほとんどなく、胸部X線やCT検査で初めて発見されることが多い大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)の症状とその治療法について紹介いたします。

日本人に多い心疾患

 日本人の死因第1位は「悪性新生物(ガン)」で、第2位が「心疾患」です(図1)。心疾患とは、心臓に起こる病気の総称で、血管が詰まって発症する「虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)」や、血管が膨らむことで発症する「大動脈瘤」のほか、「心臓弁膜症」、「不整脈」などがあります。

 いずれも、生命維持装置である心臓がある日突然止まってしまう危険性があるため、生活習慣を改善し、薬による治療のほか、重症の場合は手術が必要です。

 中でも、自覚症状がなく進行する大動脈瘤は、肥大した瘤が破裂すると突然死を招くことから「サイレント・キラー」と呼ばれています。しかし、早期発見・早期治療を行えば破裂を回避できるので、病気の特徴や症状を知って予防することが重要です。


図1 主な死因別死亡数の割合(平成27年)

大動脈瘤とは?

 大動脈瘤は、動脈硬化などで弱くなった大動脈が局所的に膨らんでこぶ(瘤)になる病気です。放置して膨らみ過ぎると破裂して大出血につながるので、命に関わります。

 大動脈(図2)は、身体に酸素や栄養を運ぶ血液を心臓から送り出す動脈の本幹部分のことで、胸から腰にかけて流れているもっとも太い血管です。体の大きさなどで異なりますが、一般的に心臓から出た上行大動脈は直径3cm、胸部から腹部に移行する胸腹部大動脈は2.5cm、その先の腹部大動脈は2cm、さらに二股に分かれて右、左の総腸骨動脈は各1cmとなっています。大動脈瘤は各部位の通常の血管の1.5倍の大きさになったものを指し、大動脈のいたる部位で発生します。


図2 大動脈

大動脈は、心臓(左心室)から上に向かった後(上行大動脈)、直ぐに背中側へ弓状に曲がり(大動脈弓)、脊椎に沿って下り腰部で左右の総腸骨動脈に分かれるまで(下行大動脈)をいいます。

症状と診断

 大動脈瘤は多くの場合、症状がありません。こぶが大きくなると声のかすれ(嗄声)や、飲み込むときにむせる(誤嚥)ことがあるほか、腹部だとおへそ辺りに拍動を感じることもあります。しかし、一般的に自覚症状は少なく、健康診断や別の病気検査で偶然指摘されることがほとんどです。検査法は、X線でも撮影される場合がありますが、こぶの正確な大きさを調べるには胸部と腹部のCT撮影を行います。

 こぶの形状は、大動脈壁が全体に拡張するこぶ(紡錘状)と、片側だけが拡張するこぶ(囊状)に分かれ、片側だけに圧力が加わる「囊状」は、大きさに関係なく「紡錘状」よりも破裂しやすいので、早めの処置が必要です。また、痛みがある場合は、破裂して命に関わる危険な状態を表しています。このため、大動脈瘤が大きくなる前に正確な診断と治療を行うことが重要です。

手術のタイミングと
手術法「人工血管置換術」「ステントグラフト内挿術」について

 大動脈瘤は血圧がもっとも高い大動脈に発生するため、自然に小さくなったり、薬で小さくすることはできません。大動脈瘤が見つかった場合、動脈硬化による影響が大きいので、血圧を抑えるなど一般的な動脈硬化予防を行いながら、画像検査で定期的に経過観察をします。そして、大動脈瘤の大きさが胸部で 5-6cm、腹部では 4.5-5cmを超えた場合は、破裂の危険性を考え、破裂を予防するために手術をお勧めします。痛みがある場合や囊状瘤である場合は、大きさに関係なく、直ぐに治療を行う必要性があります。

 治療方法には、「人工血管置換術」と「ステントグラフト内挿術」の2つがあります。

 原則的には、「人工血管置換術」を行い、開胸、もしくは開腹したうえで大動脈瘤を取り除き、人工血管に置き換えます。この手術は、方法が確立されており、安全で確実性の高い治療ですが、胸部や胸腹部を開く場合は血液の流れを人工心肺装置で補助しながら手術を行うため身体への負担が大きいというデメリットがあります。そのため、高齢の方や癌のある方などについては、この手術を選択できない場合があります。

 そのような患者さんを対象に開発されたのが「ステントグラフト内挿術」です。これは、血管に細い管(カテーテル)を挿入し、金属の骨格(ステント)を装着した人工血管(グラフト)を患部まで送って血管の内壁に展開して留置するというものです(図3、図4)。


図3 カテーテルでステントグラフトを大動脈瘤へ送り(左)、
ステントグラフト(人工血管)を展開した様子(右)

図4 血管に挿入されたカテーテル(X線画像)

 カテーテルは脚の付け根の動脈から挿入するので、胸部や腹部を切開する場合よりも手術時間が短く、身体への負担が少ないのが特徴です。大動脈瘤に留置されたステントグラフトは、バネの力と血圧によって広がり、縫い付ける必要がありません。また、大動脈瘤の切除は行いませんが、ステントグラフトで血液の流れが遮断される(図5)ため、こぶが破裂する危険性もなくなります。


図5 ステントグラフト(左)と下行大動脈で展開され、留置されたステントグラフト(右)

 どちらの治療を選択するのが良いかは、大動脈瘤の部位や形態、患者さんの体調によって異なります。当院ではどちらの方法も可能です。それぞれの治療方法についてご理解いただき、治療に最善の環境を提供いたします。

東海大学医学部付属病院における
腹部ステントグラフト内挿術施行実績

2008年10月以降の7年間に未破裂腎動脈下腹部大動脈瘤251例に腹部ステントグラフト内挿術を施行。
年齢は55-98(平均76)歳。

胸部・腹部大動脈瘤手術比較

  開胸・開腹手術 ステントグラフト内挿術
ICU滞在期間 3日 1日
在院日数 14 – 21日 5 – 7日
通常生活への復帰期間 60-90日 14-30日

東海大学医学部付属病院のステントグラフト内挿術施行実績

【まとめ】

 高齢になると動脈硬化によって心臓や血管にさまざまなトラブルが発生し、がんに次いで日本人に多い死亡原因となっています。中でも、大動脈瘤は自覚がないまま病気が進行し、破裂してしまうとそのまま死にいたる病気のため、予防することが大事です。人間ドックなどのCT検査で見つけることができ、早期治療を行えば防げる病気であることを覚えておいてください。

担当医師 Profile

心臓血管外科
ふるや  ひでかず
古屋 秀和 助教
 

担当医師 Profile

画像診断科
かめい  しゅんすけ
亀井 俊佑 助教
 

担当医師 Profile

画像診断科
すだ  さとし
須田 慧 助教

*詳細は心臓血管外科ページをご覧ください。