F3 膵臓がん

File3.消化器外科(肝胆膵領域)
「難治がんの腹腔鏡治療と危険因子」

 超高齢社会を迎えた日本では、国民の二人に一人ががんにかかるといわれています。医療の目覚ましい進歩によって、5年相対生存率が100%に近いがんがある一方、死亡率が高いがんがあるのも事実です。中でも、膵臓がんの5年相対生存率は男性8.9%、女性8.1%(2009~2011年)と極めて低く(表1)、全てのがんの中で最も予後不良の悪性腫瘍です。

 今回は、膵臓がんの手術を数多く手がけ、術後の平均在院日数12.9 日という全国でもトップレベルの実績を上げている当院のがん治療についてご紹介いたします。また、膵臓がんを根治させるには、早期発見が何よりも重要であるため、膵臓がんになりやすい危険因子についてもご紹介いたします。

膵臓のはたらき

 膵臓は、消化・分解酵素のほか、血糖値を下げるホルモン「インスリン」などを分泌し、膵管を通じて十二指腸内へ膵液を送っています(図1-1)。これにより、食べた食物が消化吸収されるほか、糖が分解されて各細胞にエネルギーが供給されています。膵臓がんは、主に膵管に生じるがんですが、胃の後ろにあり(図1-2)、膵臓の周囲には太い血管が通るため、膵臓の手術には高度な技術が必要であるほか、術後に合併症や再発を引き起こすリスクが高いため、難治癌に分類されています。
図1-1 膵臓とその周囲の臓器
(*国立がん研究センターがん情報サービスより転載)      

 図1-2 膵臓とその周囲の臓器 
(*国立がん研究センターがん情報サービスより転載)         

膵臓がんについて

 膵臓がんによる死亡数予測(2021年)では、男性は肺、大腸、胃に次いで4番目(図2)、女性は大腸、肺に次いで3番目(図3)に多く、男女を合わせると37,600人に上ります。

 膵臓がんの初期段階では、自覚症状や血液の数値に変化が表れにくく、また、他のがんに比べて悪性度が高く、進行が早いのが特徴です。そのため、発見された時点で、外科的治療が困難なケースが70%を占めています。しかし、腫瘍が1cm以下で見つかれば、5年生存率は80%に伸び、根治が可能です。そのため、早期発見が重要といえます。

 膵臓がんの症状としては、腹痛、黄だん、腰痛、背部痛、体重減少、糖尿病の悪化、食欲不振などが見られます。また、膵臓がんになる危険因子として、1)家族歴、2)遺伝性疾患、3)合併疾患、4)嗜好、5)その他といった要因が判明しています。下記の「膵臓がんの危険因子」(表2)に該当する場合は、自覚症状が無いうちに、超音波(エコー)やCTなどの画像検査を受け、経過観察をすることをお勧めいたします。なお、身体の深部にある臓器のため、早期の腫瘍(2cm以下)を見つけるのは難しく、可能であれば、肝胆膵の専門医のいる病院で検査を受けることが理想的です。
がん死亡数予測(2021年)

当院の膵臓がんの治療について

 膵臓がんの治療は、外科的手術・化学療法・放射線療法の3つのアプローチがありますが、根治させるには外科的切除が欠かせません。腫瘍の大きさや状態から、外科的切除が可能かどうかを判断します。患者さんの状態なども考慮の上、術前あるいは術後に化学療法などを取り入れた集学的治療を行っています。

 開腹手術の場合、手術の平均時間は3時間40分(通常は8~10時間)で、平均在院日数も全国でもトップレベルの12.9日という実績を上げてきました。現在は、開腹手術で培った技術を応用し、術後の回復が早い腹腔鏡下手術を主体に治療を行っています。なお、当院は、厳しい審査基準をクリアしているため、2020年4月より、腹腔鏡下手術を保険適用で受けていただくことが可能です(※2021年、都内13施設のみ)。

 腹腔鏡手術は、腹腔鏡を入れる5mm~1cmの穴を5カ所と、切除した腫瘍の取り出し口(5cm)1カ所の計6カ所の穴を開けて行います。腫瘍が発生した場所が、左側の尾部や中央の体部の場合は、ほぼ100%腹腔鏡下手術で行います。腫瘍が右側の膵頭部にあり、血管への浸潤や膵炎を起こしている場合は、開腹手術となりますが、膵頭部側でも大半は腹腔鏡下で手術を行っています。

【まとめ】

 肝胆膵疾患の外科治療が専門の和泉秀樹准教授(日本がん治療認定医機構がん治療認定医)は、「膵臓がんは切除しないと根治しません。しかし、手術できない状態で見つかることが多いので、いかに早い段階で発見できるかが課題になっています。そこで、クリニックとの連携を強化し、病気に関する啓蒙活動や検査体制を整えようとしているところですが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、残念ながら、検査を受ける人が少ないのが現状です。今後は、膵臓がんの危険因子の知識を広めていくことで、早期発見につなげていきたいと考えています」と語っています。

※東海大学医学部付属八王子病院は、2020年4月より「地域がん診療連携拠点病院」に認定されています。

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膵臓がんに対する外科治療(東海大学医学部付属八王子病院)

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 担当医師 Profile

 消化器外科
 いずみ ひでき
 和泉 秀樹 准教授
 

*詳細は消化器外科ページをご覧ください。