F4 頻尿・尿漏れ

File4.腎泌尿器科
難治性過活動膀胱とボトックス療法®(ボツリヌス毒素膀胱内注入療法)

 過活動膀胱とは症状により定義される疾患で、尿意切迫感(急に発生するこらえられない尿意)を必須として通常は頻尿(1日8回以上)や夜間頻尿などの症状を伴っています。現在40歳以上の日本人の7人に1人がこの疾患に悩まされていると推計されています。
 過活動膀胱の治療法は行動療法(飲水の調整や骨盤底筋体操など)や薬物療法が中心ですが、一定期間を過ぎても改善効果が得られない場合には難治性過活動膀胱と診断されます。
 この難治性過活動膀胱に対する新しい治療法として「ボトックス膀胱内注入療法」が2020年より保険診療として認可され、当院でも2022年より開始いたしました。今回は過活動膀胱に対する従来の治療法とこの新しい治療法について紹介したいと思います。

※ボトックスは、ボツリヌス菌の毒素を用いて作られた医薬品の商品名です。

過活動膀胱の原因

 過活動膀胱においては膀胱の過剰な収縮と尿意促拍によって正常な排尿のコントロールが難しくなっている状態にあります。その発症原因は様々ですが、脳脊髄の疾患(脳梗塞、脳出血、パーキンソン病、脊髄損傷など)による神経因性と、明らかな神経疾患がない非神経因性の2つに大別されています。後者の非神経因性の方が多く、前立腺肥大症や加齢による膀胱機能の変化などが原因となる場合と明らかな原因疾患のない(特発性)場合があります。

過活動膀胱の治療

 治療は行動療法、薬物療法、手術療法に大別されます

 

1)行動療法
a) 生活指導: 水分摂取の調整やカフェイン摂取制限、肥満の改善などで症状改善が期待できます。
b) 膀胱訓練: 少しずつ排尿の間隔を延長するように尿をこらえる訓練です。最初は1分、5分、10分と短時間からはじめて徐々に長い時間我慢できるように訓練を進めます。
c) 骨盤底筋訓練:下図のような姿勢で腹筋に力を入れずに肛門や膣を締める訓練です。骨盤の底部にある筋肉を鍛える体操で腹圧性尿失禁(咳やくしゃみで尿が漏れてしまう失禁)に有効とされていますが、過活動膀胱に対しても有効な治療法です。

2)薬物療法
a) 抗コリン薬:過剰な膀胱の収縮を抑え、尿意切迫感を改善する効果があります。口渇感や便秘などの副作用が見られることがあります。閉塞性隅角緑内障と診断されている方は使用することができません。内服薬と貼付剤があります。
b)β3受容体作動薬:膀胱の筋肉を弛緩させて拡張させる薬剤です。抗コリン薬と比較して口渇感などの副作用は少ないとされています。

3)手術療法
1)、2)の治療法で改善効果が得られない難治性過活動膀胱には手術療法を行うことがあります。ボトックス膀胱内注入療法と仙骨神経刺激療法があり、前者はA型ボツリヌストキシンを定期的に膀胱壁内に注入する方法で、後者は電気刺激装置を体内に埋め込み、仙骨神経を刺激する方法です。

ボトックス膀胱内注入療法

 ボツリヌストキシン(筋緊張を緩和させる作用あり)を内視鏡下で膀胱壁内に注入すると筋弛緩作用が起こるため、膀胱の過剰な収縮を抑えることができます。また近年の研究では尿意を伝える神経にも作用し尿意を抑制する効果も報告されています。
 難治性過活動膀胱の方が対象で、残尿量が100ml以下、尿路感染症がないことなどが手術条件となります。

手術方法について

 痛みを感じないように脊椎麻酔下に手術室で実施します。外尿道口(尿の出口)から膀胱鏡を挿入し膀胱壁を観察します。膀胱の適切な部位に20か所(神経因性膀胱では30か所)専用の針を用いて0.5mlずつ注入します。出血はほとんどありませんが、最後に膀胱内を確認して尿道留置カテーテルを挿入します。入院は1泊2日で尿道カテーテルは翌日抜去します。
 合併症には、一時的な排尿困難や尿閉、膀胱炎などがありますが、軽微なものがほとんどです。
 効果は、治療後2~3日であらわれ、1回の効果が持続するのは約6~8か月(効果や持続期間には個人差があります)のため、1年に1-2回の治療が必要となります。再投与の時期など、詳しくは、担当医にご相談ください。

【最後に】

 当院では以前より過活動膀胱の治療に熱心に取り組んでおり、多くの患者様を診させていただいております。適正な診断のための排尿機能を調べる機器も充実しており、スタッフもみな優しい人材がそろっています。
 本年4月より当院でボトックス治療が可能になり有力な治療選択肢が一つ増えました。すでに治療を受けられた患者様はその効果に大変喜ばれ、ご満足されています。これまでの薬物療法や行動療法では症状がなかなか改善しない場合には気軽にご相談ください。

※東海大学医学部付属八王子病院は、2020年4月より「地域がん診療連携拠点病院」に認定されています。

 担当医師 Profile

 腎泌尿器科
 ざこうじ ひでのり
 座光寺 秀典 教授
 

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